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ダッドリ ( Dud Dudley 1599-1684 イギリス )

  ダッドリは鉄製造の中心地Worcestershireで生まれ、Balliol College Oxfordで学ぶ。 Worcestershireは製鉄に必要な森林地帯でしたが、木材を切りすぎて、山が裸になったようです。 1621年の「Great May Day Flood」では、洪水による被害は甚大でダッドリの工場も全て押し流されたようです。 ダッドリは製鉄に使う燃料を火力を上げるために木材( wood )を木炭( charcoal )にしてから用いていたように、最初は瀝青炭( bituminous coal )を使い、後に石炭( pit coal )を一端コークス( coke ) にしてから用いた最初の開発者でした。 ただWorcestershireには製鉄業の同業者も多く、品質の良い廉価な鉄を製造するダッドリの工場は妬みをかい同業者から壊されたり、債権者から告訴されたりして、一次Londonの刑務所に収監されたりするなど多難な人生のようでした。

 ダッドリは近代製鉄産業を基礎づける担い手の一人でしたが鉄鉱石から現在の鋼( steel )文明の成り立ちに至るまでには多くの先人の創意工夫が必要でした。 ここで、古代における「鉄の歴史」と「鋼の歴史」を区別して述べてみたいと思います。 

 鉄は青銅に比べ、融点が高く、製鋼が難しく古代では隕石 ( meteorites )が用いられ、空から降ってくる金属として( sky metal )と呼ばれていた。 鉄は金銀の数十倍の価値があり大変貴重な物で、紀元前1323年に亡くなった古代エジプト王 ツタン・カーメン( Tutankhamun )の埋蔵品の剣、装飾品として残されている。 歴史に現れる最初の製鋼の技術は現在のトルコ共和国の中部アナトリア ( Anatoria )に紀元前1680-1450年頃に建国された古(新)王国の印欧語族( Indo-European Langauage )のヒッタイト( Hittites )民族とされている。 

 ボアズキョイ( Bogazköy )遺跡の発掘で出土した楔形文書から解読されている。 楔形文書に書かれているアリンナ( arinna )に銑鉄( pig iron )を製造したと思われる鋼炉(炉と煙突だけ)のブルーム ( bloom )炉の遺構が残されており、ブルーム製鋼法( bloomery process )が鉄を作る原点であったと思われています。 この簡単な仕組みの炉で鉄鉱石( mine )から鉱石( ore )を取り出すために、鉄と化学的に結合力の強い酸素、炭素を切り離すために長時間、1000℃以上の高温の維持、そのための空気の吹き込み、また不純物の黄硫、燐他を取り除く事は当時としては大変な技術なり工夫が有ったものと思われます。 

 ヒッツタイト( Hittites )民族はそれらを克服し鉄兵器を作製し強大な鉄国家を築き上げ紀元前1530年頃、メソポタミア( Mesopotamia )の古バビロニア( Babylonia )帝国を滅ぼし、そして当時世界最強の古エジプト王国のラムセスII世( Egyptian pharah RamsesII )とヒッタイト新王国のハッテユシリシュIII世( Hittite King Hattusili III )の命運を掛けた現在のシリア( Syria)中央部で紀元前1285年、歴史に残る壮絶なカデシュの戦い( Battle of Kadesh )で鋼製兵器として使い勝利(引き分け?)したと言われています。 ヒッタイトの製鋼技術は400年間、隠匿され、ヒッタイトの製鋼技術が地中海文明に伝播されるようになったのはヒッタイト王国が滅亡する紀元前1200年頃とされている。

 鉄( iron )は、他の金属と同様に、単体としては地殻( the Earth crust )には存在しておらず、鉄鉱石( iron ore )は自然の状態では、酸素と結合した,特にFe2O3の形の酸化鉄( iron oxide )として産出される。 この鉄鉱石からFe単体を取り出すためには、一旦Fe2O3の鉄と酸素を切り離す必要があり、酸素と化学的に親和力の強い炭素を用いる。 そのために鉄鉱石を砕いた砕石( pellets )を、炉の中で炭素を含む木炭、石炭、コークス等の火力で溶かし酸素を取り除き鉱石( smelting ore )にする過程を精錬(溶鉱)という。 この火力による精錬過程の温度の違いで、概ね炭素の含有量の違う三種類の鉄に分けられる。 

1200℃で「鋳鉄( cast iron )、銑鉄( pig iron )」、炭素の含有量は2.0%以上で硬く強度はあるが脆性で脆い
 1400℃で「鋼( steel )」、炭素の含有量は0.02%から2.0%前後で延性に富みかつ強度も強い
 1500℃以上で「鍛鉄、錬鉄( wrought iron )」炭素の含有量は0.02%以下で延性に富むが強度は弱い。 

1) 「高炉」で「鉄鉱石」から「銑鉄」までにする過程を「製錬工程」という。
 2) 「転炉」で「銑鉄」から「鋼」、「錬鉄」までにする過程を「精錬工程」という。
   「鉄鉱石」から品質の良い「鋼( steel )」の製造までに産業革命からの近代科学のもとでも
   350年の時間が必要で、その解決しなければならない問題は以下のようです。
1) 「鉄鉱石」を溶かすための「燃料」の変遷、木、木炭、石炭、コークス、酸素等
2) 「鉄鉱石」から自然に含有される不純物の除去、硫黄、燐、珪素等
3) 「鉄鉱石」「石炭」「石灰」「マンガン」等の鉱石は採掘される鉱山によって、その質、鉱物的含有成分はまちまちです。 品質のよい鉱石を求めて世界中を捜し求める調査、発掘、分析等 「鉱山学」
4) 「高炉」、「転炉」の構造上の発明、改善、改良

 これ等鉄生産の手工業から工業化までに携わった工学者、科学者、発明家は無数にいたかと思いますが、いずれにしても、「今、国家にとって必要なのは鉄と血なり」と演説したドイツの首相ビスマルク( Otto von Bismarck 1815-1898 )以来、「鉄は国家なり」は現在でも生きている国家概念である。 鉄の生産はイギリスを初めとした西欧の産業革命の母であり、現在でも建築、造船、鉄道、自動車、、、、 、針1本まで鉄製品で私たちの生活にとって必需品であり、今日までの廉価な大量の需要を満たすまでには、先人の創意工夫は大変なものだったと思います。

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